金融サービスにおけるAI革命:機会を活かし、課題を克服する

Johnathan Bangura
VP Financial Services, Industry Solutions, Rimini Street
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金融サービスにおけるAI革命:機会を活かし、課題を克服する

人工知能(AI)は、金融サービス部門にとって重要な検討事項のひとつとなりつつあります。近年、業界全体が競争力を高めるためにAI技術を利用しており、大手銀行から取引所、保険組織に至るまで、AIは意思決定プロセスを迅速化し、データセットの分析を効率化し、顧客行動に関するより深い洞察を得るために活用されています。

金融サービスにおけるAIの導入

マッキンゼーのレポートによると、AIは世界の銀行業界に年間最大1兆ドルの追加価値をもたらす可能性があるとされています。しかし、この可能性にはリスクも伴います。最近では、大規模言語モデルChatGPTのような生成AIツールが大きな注目を集め広く利用されていますが、リスクを避けたい金融サービス業界にとって、採用を検討する前にいくつかの重要な考慮事項があります。

生成AI分野は常に進化し続け、企業が活用できる新しい機能を次々に生み出しているため、最適なテクノロジーを選択することが重要です。ガートナー社の調査によると、AIのプロジェクトの85%は、データの選択と解釈の偏りが原因で期待通りの成果を上げていないことがわかっており、CIOがどのツールやモデルを導入するか十分な情報を得たうえで決定することの重要性が強調されています。

金融サービスにおけるAIのリスク管理

データ共有技術や生成AIモデルをビジネスに組み込むことで、データ漏洩や風評被害の可能性も高まります。英国企業だけでも、過去12カ月で22%がデータ漏えいやサイバー攻撃を経験していると推定されており、データ・セキュリティは極めて重要な懸念事項であることが伺えます。生成AIツールはその機能を磨くためにデータ共有を必要とするため、企業にとっては潜在的な秘密情報を漏洩させるリスクが高まります。クローズド(非公開)の生成AIツールは、データアクセスが制限され効果が限定的となるので、生成AIモデルが、集中管理されたリポジトリや外部組織とデータ共有しつつ最大限の能力を発揮できるようにすることが重要です。

デロイトの調査によると、金融サービス企業の62%が、AI技術を採用する際の最大の懸念事項としてデータ・セキュリティとプライバシーを挙げていることから、データ共有は、潜在的なレピュテーションリスクと経営リスクであるだけでなく、既存のプロセスを混乱させる可能性のある新たなワークフローの導入や、知的財産を保護するための新たなデジタルトランスフォーメーション戦略も必要とするものなのです。

AI導入のアプローチ

生成AIテクノロジーの導入には、デジタル・セキュリティ・プロトコルの強化に加え、ビジネス・プロセスの全面的かつ大幅な変更が必要となります。組織は、既存のシステムを補完するために生成AIツールを使用することによって小規模で段階的な改善を目指すか、本格的なデジタルトランスフォーメーションを追求するかの選択肢があります。AIを活用しプロセスを完全に刷新することは、大きな利益をもたらす可能性がある一方で、従業員にとっては非常に破壊的でもあり、雇用の安定に対する懸念が生じる可能性があります。このような懸念を払拭するために、従業員をAI導入プロセスに参加させるとともに、企業は12ヶ月など比較的短い期間内に目に見えるROIの達成を目指すべきです。困難な目標ではありますが、アクセンチュアの調査によると、C-レベルの役員の35%が自社のAI投資についてポジティブなROIを報告しています。

生成AIは絶え間なく進化を続けるテクノロジーであるため、組織はその導入を実験的なプロセスとして捉え、失敗しても大きな影響を受けない余地を持たせることが重要です。このような環境では、企業は生成AIの利点を直ちに探求し、自社のニーズに合わせて採用することができます。それと同時に、他の業界や競合他社が同様のリスクプロファイルで生成AIの導入を検討しているため、金融サービス企業は業界全体を守るために協力し、将来のための基準を確立することが重要です。これらの課題に一社で取り組むことは困難であり、生成AIを今後何年にもわたって変革的なツールとして活用するためには、協力が不可欠です。